代理権・特別の授権・委任状の提出(代理権の証明)についての探求(特許法9条・特許法施行規則4条の3)
先ず初めに、「代理権」の有無と「委任状の提出」の有無は、わけて考える必要があります。委任状というのは、書面をもって代理人の代理権を証明するものです。
現在(昔は違っていましたが)、日本では、弁理士が出願人を代理して、通常の出願や国内移行をする際には、「委任状の提出」は不要です(これは、比較法的に見て、やや珍しい部類かもしれません。)。このことは、「代理権」がいらないのではなく、「委任状の提出」がいらないということにすぎません。およそ、「代理人」(願書にも「代理人」と記載されます。)として、手続きをする以上、当該行為について、「代理権」がなければならないのは基本です。これがわかっていないと、特許法8条や9条の理解を間違えてしまいます。受験生の方も、弁理士の方も、事務担当者の方も、気を付けましょう!このように、「代理権」の有無と「委任状の提出」の有無は全く別物です。さらにいえば、「委任状の取得」の有無も別問題ですね。
では、「委任状の提出」が必要な場合は、どのような場合でしょうか。もちろん、悩んだら人に聞くという人もいます。それはそれで、大事なことですね。同様に、条文を追及するとのことです。実は、どの手続について、「委任状の提出」が必要か、については、特許法自体には記載されていません。9条は、いわゆる不利益行為について「特別授権」が必要としていますが、条文上のたてつけとしては、「委任状の提出」の必要性については記載されていませんのでご注意ください。
特許法
(代理権の範囲)
第九条 日本国内に住所又は居所(法人にあつては、営業所)を有する者であつて手続をするものの委任による代理人は、特別の授権を得なければ、特許出願の変更、放棄若しくは取下げ、特許権の存続期間の延長登録の出願の取下げ、請求、申請若しくは申立ての取下げ、第四十一条第一項の優先権の主張若しくはその取下げ、第四十六条の二第一項の規定による実用新案登録に基づく特許出願、出願公開の請求、拒絶査定不服審判の請求、特許権の放棄又は復代理人の選任をすることができない。
さて、特許法施行規則に記載されています。すなわち、
- 法定代理権、
- 特許法第九条の規定による特別の授権
- 次に掲げる手続をする者の代理人の代理権
については、「書面をもつて証明」しなければならない、とされています。逆をいえば、特許法の9条の特別授権だけが、「委任状の提出」が必要とされる行為ではありませんので、ご注意ください!!
特許法施行規則
(代理権の証明)
第四条の三 法定代理権、特許法第九条 の規定による特別の授権又は次に掲げる手続をする者の代理人の代理権は、書面をもつて証明しなければならない。ただし、第二号において、特許法第三十四条第四項 の規定による特許を受ける権利の承継の届出を行う譲渡人代理人が届出前の代理人と同じ場合は、その代理人の代理権は書面をもつて証明することを要しない。
一 手続の受継の申立て
二 特許法第三十四条第四項 又は第五項 の規定による特許を受ける権利の承継の届出
三 特許法第四十四条第一項 の規定による特許出願(もとの特許出願の代理人による場合を除く。)
四 出願審査の請求(他人による請求に限る。)
五 特許権の存続期間の延長登録の出願
六 判定の請求
七 裁定の請求
八 特許法第八十四条 (同法第九十二条第七項 又は第九十三条第三項 において準用する場合を含む。)の規定による答弁書の提出
九 審判の請求(拒絶査定不服審判を除く。)
十 特許法第百三十四条第一項 の規定による答弁書の提出(同法第七十一条第三項 及び第百七十四条第二項 において準用する場合を含む。)
十一 特許法第百四十八条第一項 又は第三項 の規定による参加の申請(同法第百七十四条第二項 において準用する場合を含む。)
十二 証拠保全の申立て(判定請求前、審判の請求前又は再審の請求前の申立てに限る。)
十三 再審の請求
十四 第二十七条の二第二項の規定による微生物の寄託についての受託番号の変更の届出(特許権者による届出に限る。)
2 手続をした者若しくは特許権者が第九条の二第一項の規定により代理人の選任若しくは変更若しくはその代理人の代理権の内容の変更を届け出る場合又は手続をした者若しくは特許権者の代理人が同条第二項の規定により代理人に選任されたことを届け出る場合は、選任した代理人の代理権若しくは変更後の代理権又は選任された代理人の代理権は、書面をもつて証明しなければならない。
3 手続をした者は、事件が特許庁に係属している場合において、第九条の二第一項又は第二項の届出をすることなく、新たな代理人により当該事件に関する手続をするときは、その代理人の代理権は、書面をもつて証明しなければならない。ただし、次に掲げる手続については、この限りではない。
一 特許法第百七条第一項 の規定による特許料の納付
二 特許法第百十一条第一項 の規定による既納の特許料の返還請求
三 特許法第百十二条第二項 の規定による割増特許料の納付
四 特許法第百八十六条第一項 の規定による証明、書類の謄本及び抄本の交付、書類の閲覧及び謄写並びに特許原簿のうち磁気テープをもつて調製した部分に記録されている事項を記載した書類の交付の請求
五 特許法第百九十五条第十一項 の規定による過誤納の手数料の返還請求
六 第十五条第二項の規定による物件の受取の手続
七 第三十一条の三第一項の規定による優先審査に関する事情説明書の提出
4 特許庁長官又は審判長は、第一項及び前項の規定にかかわらず、代理人がした手続について必要があると認めるときは、代理権を証明する書面の提出を命ずることができる。
なお、特許法9条は、条文上は、在外者には適用されませんが、結局、特許法施行規則4条の3第4項を介して、実質的に適用されているのが、実務運用といわれています。もちろん、4項は、「できる」規定ですが。よって、例えば、在外者による拒絶査定不服審判の請求については、特許法施行規則4条の3第4項に基づいて、委任状の提出(代理権の証明)が「求められる」ことはありえますが(実務)、特許法9条を介して、特許法施行規則4条の3第1項に基づいて、「特別の授権」として、「委任状の提出」(代理権の証明)をしなければならない、というものではないわけです。
折に触れ、自分たちの仕事の法律上の根拠を考えてみるのは、仕事の適確性を高めるために有意義ですね。