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甘えは許されない!?優先権


平成 20年 (行コ) 10002号 却下処分取消請求控訴事件
2009年3月26日判決言渡


優先権については、甘えが許されない(と思った方がよい)ので、特に注意が必要です。

次の事件では、パリ条約上の優先権を主張すべき意匠登録出願の事案ですが、出願したその日に、願書にパリ条約上の優先権を主張する記載がないことに気付いています。

しかし、出願人は、出願を出し直すのではなく、「補正」にしてしまったわけです。出願手数料を2回払うのを避けたいという気持ちはわからなくはないのですが、せっかく、気付いたのであれば、「補正」ではなく、もう一度、「出願」すべきであったと思います。もしかしたら、事務担当者や担当弁理士が自分でなんとかしようとしたのかもしれませんが。但し、出願手数料を2回払う方が、訴訟を起こさざるを得ない(そして負けている)リスクよりも、はるかにましといえます。

この辺りは、結局は、事務担当者や担当弁理士を含め、事務所全体の「背後に存在するリスクを感じる力」が求められます。つまり、願書の記載における多くの事項は、通常、容易に誤記や記載漏れがあっても、補正できるものも多いので、優先権の記載も同じように考えたのかもしれません。もし事務担当者や担当弁理士がそのように考えたのであれば、それは、全く条文などの論拠に基づかない、「経験則」を勝手に拡張させてものであり、危険すぎる行為です。

もちろん、全てについて、解決策を持ち合わせている人はどこにもいません。ただ、出発的はリスクの認識でしょう。そして、個人レベルでは、「今までしたことが無い行為である」ことが、先ずは、リスクを感じさせるのに十分だともいます。この「リスク」が正しく報告され、事務所の問題として把握できれば、後は、それに応じて、解決策を検討し、適切な対応をすればよいので、このリスク管理の徹底が重要になるかと思われます。やや一般論になりました。。。
1本件の経過
本件は,控訴人が意匠登録出願と同時に,パリ条約による優先権主張の手続をしないで,その後の上記出願日中に,優先権主張に必要な事項を追加した手続補正をし,さらに後日,適法な優先権主張があることを前提とした優先権証明書の提出書を提出したのに対し,特許庁長官が控訴人に対し,上記手続補正及び同優先権証明書の提出書に係る各手続をいずれも却下する処分(以下「本件各処分」という。)をしたため,控訴人が被控訴人に対し,上記手続補正を却下した処分には意匠法15条1項で準用される特許法43条1項の解釈・適用を誤った違法があり,この違法な却下処分の存在を前提とした上記優先権証明書の提出書を却下した処分には意匠法60条の3の適用を誤った違法がそれぞれあると主張して,本件各処分の取消しを求める事案である。

争点は意匠法15条1項で準用される、特許法43条の「出願と同時に」の解釈です。

パリ条約第四条D(1)の規定により特許出願について優先権を主張しようとする者は、その旨並びに最初に出願をし若しくは同条C(4)の規定により最初の出願とみなされた出願をし又は同条A(2)の規定により最初に出願をしたものと認められたパリ条約の同盟国の国名及び出願の年月日を記載した書面を特許出願と同時に特許庁長官に提出しなければならない。

平たくいえば、控訴人の主張は、究極的には、その日のうちに補正により直しているのですから、ほとんど誰にも迷惑をかけないので、許されてもいいのでは、というものです。もちろん、色々な論理を展開していますが。。。心情的には理解し得るところもあります。

しかし、本判決は、原審の判決を維持し、特許法43条において、「出願と同時に」とされている以上、本事案のような場合では、補正でリカバリーすることはできないわけです。この点において、他の願書の記載事項とは全く異なるわけです。

このように、優先権の主張は、極めて重要なので、優先権の記載は、優先権を主張する場合には、極めて念入りに確認するべきこととなります。基礎出願の国名・日付(・番号)なども丁寧に穴が空くほど確認するようにしましょう。

もちろん、本件と異なり、何らかの記載がされている場合には、補正が許される場合もありますが、そのような救済手段を最初からあてにしない方が無難です。注意一瞬、怪我一生ですので。。



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