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ジェネンティック事件・知財高裁大合議判決(存続期間延長)その2


さきに述べたジェネンティック事件・知財高裁大合議判決の追記ですが、今回は、同判決における延長された特許権の効力についての傍論について。。。

(2) 特許法68条の2の「政令で定める処分の対象となつた物」及び「用途」に係る特許発明の実施行為の範囲について 
  ア 「政令で定める処分」が薬事法所定の医薬品に係る承認である場合,存続期間が延長された特許権の効力が,薬事法の承認の対象になった物(物及び用途)に係る特許発明の実施行為のうち,いかなる範囲に対してまで及ぶかについては,前記のとおり,特許権侵害訴訟において検討されるべき事項であるといえるが,関連する範囲で,便宜検討することとする。  
イ 薬事法14条1項は,「医薬品・・・の製造販売をしようとする者は,品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければならない。」と規定し,同項に係る医薬品の承認に必要な審査の対象となる事項は,「名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項」(同法14条2項,9項)と規定されている。このことからすると,「政令で定める処分」が薬事法所定の医薬品に係る承認である場合には,常に「効能,効果」が審査事項とされ,「効能,効果」は「用途」に含まれるから,同承認は,特許法68条の2括弧書きの「その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合」に該当するものと解される。  
ウ 薬事法の承認処分の対象となった医薬品における「政令で定める処分の対象となった物及び用途」の解釈については,特許法68条の2によって存続期間が延長された特許権の効力の範囲を,どのような事項によって特定すべきかの問題であるから,特許権の存続期間の延長登録の制度趣旨(特許権者が,政令で定める処分を受けるために,その特許発明を実施する意思及び能力を有していてもなお,特許発明の実施をすることができなかった期間があったときは,5年を限度として,その期間の延長を認めるとの制度趣旨)及び特許権者と第三者との公平を考慮した上で,これを合理的に解釈すべきである。なお,医薬品関連特許にも様々なものがあり,これを一様に論じることは困難であるため,延長登録された特許権の効力について以下に判示するところは,医薬品の成分を対象とした特許発明について述べるものである。 
 (ア) 特許法68条の2所定の「政令で定める処分の対象となつた」について
 薬事法14条2項3号所定の前記審査事項のうち,「名称」は,医薬品としての客観的な同一性を左右するものではなく,医薬品の構成を特定する事項とならないので,延長された特許権の効力を制限する要素とは解されない。
「成分(有効成分に限らない。)」は,医薬品の構成を客観的に特定する事項であって,上記審査事項における重要な要素であるから,延長された特許権の効力を制限する要素となる。
「分量」は,錠剤やパックなどの単位医薬品中に含まれる成分等の量を指すため,医薬品の構成を客観的に特定する要素となり得るものの,競業他社が,本来の特許期間経過後に,特許権者が臨床試験等を経て承認を得た医薬品と実質的に同一の用法・用量となるようにし,分量のみ特許権者が承認を得たものとは異なる医薬品の製造販売等をすることを許容することは,延長登録制度を設けた趣旨に反することになるから,分量については,延長された特許権の効力を制限する要素となると解することはできない。 
「副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項」も,通常,それ自体が医薬品としての実質的な同一性に直接関わる事項とはいえないから,これも延長された特許権の効力を制限する要素と解することはできない。  
(イ) 特許法68条の2所定の「用途」について
医薬品における「用途」の用例に照らすならば,上記審査事項の「効能,効果」は,当該医薬品の「用途」に該当し,延長された特許権の効力を制限する要素となる。
上記審査事項の「用法,用量」は,医薬品においては,医薬品の患者への使用方法に関するものであるものの,医薬品においては,特定の用法,用量ごとに,その副作用の安全性を確認するための臨床試験が必須となり,そのために承認までに相当な期間を要し,その期間内は特許発明の実施が妨げられるとの状況が存在し,「用法,用量」は薬事法上の承認における各審査事項の中でも重要な審査事項の一つであること(甲25),及び本件先行処分や本件処分のように,当該医薬品の「他の抗悪性腫瘍剤との併用」を前提として「用法,用量」が定められる場合があること等に照らせば,これも「用途」に含まれ,延長された特許権の効力を制限する要素となると解するのが相当である。  
(ウ) 以上のとおり,特許権の延長登録制度及び特許権侵害訴訟の趣旨に照らすならば,医薬品の成分を対象とする特許発明の場合,特許法68条の2によって存続期間が延長された特許権は,「物」に係るものとして,「成分(有効成分に限らない。)」によって特定され,かつ,「用途」に係るものとして,「効能,効果」及び「用法,用量」によって特定された当該特許発明の実施の範囲で,効力が及ぶものと解するのが相当である(もとより,その均等物や実質的に同一と評価される物が含まれることは,延長登録制度の立法趣旨に照らして,当然であるといえる。)。  
 エ 上記のように解した場合,政令で定める処分を受けることによって禁止が解除される特許発明の実施の範囲と,特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力が及ぶ特許発明の実施の範囲とは,常に一致するわけではない。しかし,先行処分を理由として存続期間が延長された特許権の効力がどの範囲まで及ぶかという点は,特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったか否かとの点と,直接的に関係するものでない以上,それぞれの範囲が一致しないことに,不合理な点はないというべきである。なお,政令で定める処分を受けることによって禁止が解除された特許発明の実施が,先行処分に基づき存続期間が延長された当該特許権の効力が及ぶ特許発明の実施の範囲に含まれるような場合は,重複して延長の効果が生じ得ることとなる。後行処分による延長期間が先行処分による延長期間より長い場合には,これに対応する期間,当該特許権の存続期間が延長されるが,当該期間については,当該特許発明の実施が禁止されていた部分があることに照らすと,上記のように解することに何ら不合理な点はない。 

という、論理です。「直接的に関係するものでない以上」、「延長登録制度の立法趣旨に照らして,当然である」、「上記のように解することに何ら不合理な点はない。」とかは、検討の余地があるかと思われます。

具体的にどうやって処理するのか、あまり手がかりがありませんね。これは傍論であるとはいえ、今後の問題として、「延長登録制度の立法趣旨に照らして」「これを合理的に解釈すべき」では、問題を先送りしている感じがありますね(もちろん、傍論なので、先送りでも構わないのですが。)。

例えば、有効成分の特許があったとします。そのとき、「有効成分をA、PH調整剤をB、用途がX」の承認があったとして、この延長された特許権の効力は、「有効成分をA、PH調整剤をC、用途がX」の後発品(別に後発品である必要はないが。)に延長された特許権の効力は及ぶでしょうか?これを及ぶと考えるためには、上記判決の傍論でいうところの、「もとより,その均等物や実質的に同一と評価される物が含まれることは,延長登録制度の立法趣旨に照らして,当然である」を使うことになるのでしょう。ここでは、BとCとの違いについて、「その均等物や実質的に同一と評価される物」とすることになります。では、これを逆手にとって、上述の「有効成分をA、PH調整剤をB、用途がX」の承認について2年しか延長できなかったときに、「有効成分をA、PH調整剤をD、用途がX」の承認を受けて4年の延長を受けたとします。この延長された特許権の効力は、

(1)「有効成分をA、PH調整剤をC、用途がX」
(2)「有効成分をA、PH調整剤をB、用途がX」
とする後発品に及ぶでしょうか?これが、いずれも、「及ぶ」とする立場をとるならば、(2)の「有効成分をA、PH調整剤をB、用途がX」については、延長された特許権の効力は2年で切れているのでは?という疑問が湧くわけです。そうすると、PH調整剤の成分を変えて承認を受ければ、理屈上は、後発品参入を防ぐことができるわけです。上記判決の傍論からすれば「後行処分による延長期間が先行処分による延長期間より長い場合には,これに対応する期間,当該特許権の存続期間が延長されるが,当該期間については,当該特許発明の実施が禁止されていた部分があることに照らすと,上記のように解することに何ら不合理な点はない。」ということになるのかもしれませんが、そうすると、先発品側とすれば、PH調整剤(であれ、何であれ、有効成分以外の成分)を変えた承認であって、かつ、より長い延長期間が得られる承認得ることにより、存続期間を伸ばす余地が生まれますね。これを仮にけしからん、と判断するために、上記判決の傍論によると、「特許権者と第三者との公平」も考慮事項の一つとされている点を主張することになりますが、この公平を考えることが重要でないとはいいませんが、そのような曖昧な概念(のみ)で、延長された特許権の効力を画するとなると、極めて法的安定性なり法的予見性が乏しい状態となります。かりに、これが「特許権者と第三者との公平」の観点から、けしからんという結論(つまり、効力が及ばない)とするのであれば、特許権者としては、両方の対応が可能であれば、「有効成分をA、PH調整剤をB、用途がX」での2年の延長を受けることなく、)「有効成分をA、PH調整剤をD、用途がX」での4年の延長のみを検討するべきこととなりましょう。

また、「分量」についても同様の問題があり得ますね。

物質特許以外の特許をどうするかという問題もありますね。

これらすべてを今後の裁判例の積み重ねに委ねてしまおう、というのは、せっかくの傍論がややもったいない感じがします。むしろ、弱点が明らかになっているという気がしないでもない気がします。

延長登録要件では、極めて、文理解釈に即していますが、逆に、効力のところは、とても、「趣旨」とか「当然」とかが、多くなっています。この結果、延長登録要件は、基本的には、文理解釈による限り、ほぼ100%明らかな感じがします。しかし、なぜ、延長登録要件のところで、「趣旨」を挟んだような解釈がいけないのか、そのような論証が十分ではない気がしないでもありません。延長登録要件は、がちがちでそのまま許容し、効力のところで、全て「趣旨」を踏まえて調整する(しかし、その予見可能性は現時点ではきわめて乏しい)、というやり方が本当にベストなのでしょうか?現在の特許庁の審査基準は、むしろ、延長登録要件において、「延長登録制度の趣旨」を念頭においたようにも思います(無論、私が作ったわけではありませんが。)。そして、その結果、延長された特許権の効力の予見可能性は高かったように思います。

本件事案においても、最高裁に上告されるならば、最高裁が、使用方法の部分での先行処分での相違であっても、(用途として、)延長登録の相違とみてよい、という事例判決にしてしまう、という可能性もあると思います(前回の最高裁判決と同様の手法)。ただ、特許庁の上告のハードルの問題と、原審が大合議判決になる点で、そのような最高裁判決は期待し辛いのかもしれませんが。。。







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