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特許権の存続期間の延長の審査基準(案)の問題点を考えてみたい


平成23112日に特許庁は、「特許権の存続期間の延長」の審査基準改訂案に対する意見募集を公表しました。そして、意見書提出期間は平成23121日まででした。


「特許権の存続期間の延長」の審査基準改訂案に対する意見募集

「特許・実用新案 審査基準 第Ⅵ部 特許権の存続期間の延長」新旧対照表(案)

産業構造審議会知的財産政策部会 特許制度小委員会 特許権の存続期間の延長制度検討ワーキング・グループ「第7回ワーキング・グループの配付資料」「資料2 審査基準改訂案における現行運用からの変更点について」


※ 審査基準案だけよんでもややわかりにくいのですが、意見募集の際に、「審査基準改訂案については、こちらのサイトの第7回ワーキング・グループの配付資料を御参照ください。」と記載されており、理解の一助になります。

特許庁は、審査基準改訂案の基本方針として、以下のように述べています。


第67条の3第1項第1号における「特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であった」についての考え方が、以下の要件に合致するものとなるように、審査基準を改訂する。

○最高裁判決(平成21年(行ヒ)第324から326号)と齟齬しないこと。

○最高裁判決が判示した先行処分が特許発明の技術的範囲に属しない場合を含め、どのようなケースであっても一貫した説明ができること。


最高裁は、極めて、言葉少なしでして、最高裁判決の射程が及ばないところについて、どのようにすればいいのか、という難題を特許庁は抱え込むことになりました。最高裁判決の原審の知財高裁判決は、もう少し言葉が多かったのですが、結局、勇敢にも、特許庁は、原審の知財高裁判決とは同一とはいえない、新しい考え方を提唱しました。それは、従来の「有効成分及び用途」という考え方から脱却するも、「クレームの発明特定事項及び用途」という考え方を採用するものです。

さて、審査基準(案)と第7回ワーキング・グループの配付資料(特に、「資料2 審査基準改訂案における現行運用からの変更点について」)をざっと読み解きながら、果たして、新たな審査基準(案)が、基本方針のとおり、「どのようなケースであっても一貫した説明ができる」ものになっているのか、簡単に検討してみたいと思います。


「有効成分」と「有効成分以外の物」の説明の一貫性

資料2の7頁について考えてみます。

特許発明

【請求項1】物質Aを有効成分とし、安定化剤としてポリマーBを含有する鎮痛剤。

【請求項2】物質Aを有効成分とし、安定化剤としてポリマーCを含有する鎮痛剤。

●本件処分●

有効成分:物質a1

安定化剤:ポリマーc1

効能・効果:鎮痛

剤型:錠剤

という前提のもとに、

以下の先行処分1と2があった場合について検討しています。

●先行処分1●

有効成分:物質a1

安定化剤:ポリマーc1

効能・効果:鎮痛

剤型:錠剤

●先行処分2●

有効成分:物質a1

安定化剤:ポリマーb1のみ(ポリマーc1を含まない)

効能・効果:鎮痛

剤型:錠剤

●先行処分2●の場合に、延長が認められるのが、審査基準(案)で新しく許される類型の一つです。

しかし、たくみにも、審査基準(案)次のような●先行処分3●と●先行処分4●の場合を検討していないようです。

●先行処分3●

有効成分:物質a1

安定化剤:ポリマーc2のみ(ポリマーc1を含まない)

効能・効果:鎮痛

剤型:錠剤

●先行処分4●

有効成分:物質a2

安定化剤:ポリマーc1

効能・効果:鎮痛

剤型:錠剤

●先行処分3●の場合に、延長が認められるのであれば、ポリマーc2とポリマーc1を個別化して考えていることになります。逆に、この場合に、延長が認められないのであれば、ポリマーc2とポリマーc1は、ポリマーCという概念で考えていることになります。●先行処分4●についても、延長が認められるのであれば、物質a2と物質a1を個別化して考えていることになります。逆に、この場合に、延長が認められないのであれば、物質a2と物質a1は、物質Aという概念で考えていることになります。

●先行処分4●については、従来の実務との平仄からしても、別の有効成分についての承認については、もう一度、延長が認められるべきだと、普通考えるでしょう。しかし、●先行処分4●について延長可能の立場(有効成分Aについて個別化の立場)にたちつつ、●先行処分3●の場合について延長不可の立場(ポリマーCについて概念の立場)に立つのは、(それ自体特段奇異な考え方ではないと思いますが)、一貫性が無いと考えることもできます。結局、その立場は、「有効成分」を「物」の構成のうち、特別なものとして扱うことになりますが、そのようなことは条文に書かれていないわけです。つまり、法律には、「物」=「有効成分」と記載されていないことが、そもそもの最高裁判決の事案の出発点なのですが、同様に、「物」のうち、「有効成分」は特別だ、とも、法律には書いていないわけです。今後、火種になる可能性があります。そもそも、審査基準(案)が、敢えて、●先行処分3●と●先行処分4●について(とりわけ対比的な)記載しなかったのも、議論が収れんできていない可能性を感じます。


以下、続く(予定)。。。

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