出願した後で新規性を喪失していたことに気付いた場合の戦略は何か
出願した後で新規性を喪失していたことに気付く場合があります。特に、大学の先生の出願を企業が行う場合、当初聞いていたのと異なり、発表をしていたとか、予稿集に掲載されていたとかがあります。
そのような場合の効果的な対応を考えてみたいと思います。特に、以下では、出願Aをした後に、出願Aよりも前に、新規性喪失を喪失していたことに気付いたが、まだ、新規性喪失日から6月経過していない場合の対応を考えてみます。
当然出願Aにおいては、新規性喪失の例外の適用の申請をしていないわけです。
このような場合にあっては、ただ単に、別途、新規性喪失の例外の適用の申請を伴う出願Bをすることも考えられます。しかし、別のやり方もあります。
すなわち、
(方法1)出願Aを基礎出願とする国内優先権主張出願として出願Bを行う
(方法2)出願Aを原出願とする分割出願として出願Bを行う
出願Bが、国内優先権主張出願であっても分割出願であっても、出願Bが新規性喪失日から6月経過していない限り、出願Aにおいて、新規性喪失の例外の適用の申請をしていなかったとしても、出願Bにおいて、新規性喪失の例外の適用の申請をすることができます。これがミソです。これについては、特許庁が明らかにしています。
こうすることで、自らによる新規性喪失に関し、新規性喪失の例外のメリットを受けつつ、新規性や進歩性などの登録要件について、判断基準日が出願Aの出願日となるというメリットも受けられます。
それでは、(方法1)と(方法2)はどちらがよいでしょうか。特に新しい事項が追加されない以上、必ずしも、国内優先権主張出願とする必要はなく、分割出願であってもよいように思われますが、基本的には、国内優先権主張出願の方が良いといえます。
先ず、存続期間の観点からは、出願Bが国内優先権主張出願であれば、出願Bの出願日が存続期間の起算日になるのに対し、出願Bが分割出願であれば、出願Aの出願日が存続期間の起算日になるため、国内優先権主張出願の方が有利です。
また、今後改良発明などにより、国内優先権主張出願Cをする場合には、出願Bが分割出願であれば、出願Bを出願Cの国内優先の基礎とすることができません(特許法41条1項2号)。これに対し、出願Bが国内優先権主張出願であれば、出願Bを出願Cの国内優先の基礎とすることができます。
さらに国際出願の自己指定の効果を検討すると、出願Aと出願Bを国際出願の基礎出願をしたところで、日本への移行出願に関しては、自己指定の効果として、国内優先権として考えることになりますので、出願Bが分割出願である場合には、優先権の基礎とすることができません。とすると、国際出願の出願日が新規性喪失日から6月以内というわけではなければ、もはや新規性喪失の例外の適用を受けられないように思います(やったことはありませんが。)。しかし、出願Bが国内優先権主張出願であれば、そのような問題は生じません。なお、うっかり分割出願をしてしまった場合には、国際出願時点で日本を指定国から外しておくか、それさえも忘れて国際出願をしてしまった場合には、分割出願が取り下げ擬制がされないうちに、指定国外しをするなどして、国際出願からの移行出願ではなく、分割出願の方を生かすことを考える必要があります。
以上のような内容で、事務所の弁理士での検討会議を先日行いました。。。
新規性喪失の例外は手続的にも落とし穴が多く、また、戦略的にも考えるべきことは多く、きちんとハンドルできる習熟した事務所なり、事務所の担当者であることを意識しつつ、進めることが肝要かと思います。プロにとっても、少し難しいです。弊所では通常、この種の問題は複数の弁理士で検討します。